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動画作品集「黒部」「剱」を完成させ、この5年間を振り返る

 現在、ドローンで風景を気軽に俯瞰できるが、これはつい最近のことだ。僕が静止画から離れて動画撮影を行ったのがちょうどこの5年間でドローンの進化は著しかった。人工衛星の数が増えたので安定して飛べるようになった。ドローンの撮影は静止画では単調になりやすく、動画だと活きる機材だと思う。 2020年頃から1型という132mm×88mmセンサーサイズカメラ内蔵のドローンが普及し、以前より繊細な映像や写真が撮れるようになった。自宅の50インチ型のテレビ画面で見て十分の精細さだと思う。僕は黒部、そして昨年末に剱岳の動画作品集を纏めたのを機に動画は一区切り、今後は静止画表現に戻ろうと思っている。ドローンによる表現に今まで新鮮さを感じていたが、最近は追求するだけの奥深さや価値を感じられなくなってきている。写真の持つ記録と芸術という2つの側面をよく考え、今後何をしたらいいのか心を整理して次の目標を定めたい。

「今や山の番組ではドローンの映像が欠かせない存在、エベレストの山頂でも飛ばすことができる。しかし本来なら自分の目で初めて出会えたはずの風景がドローンによって奪われてしまっている。実際その場に立って見た空気感や雰囲気はドローンで見た風景で感じることは難しい。自分の足でその場に立つことがとても大切だ」。国内外で山岳ドローン番組に多数出演している中島健郎に聞くと、現役の登山家らしくこう答えた。実際に足でたどり着いて撮った会心の一枚には魂が宿り、その場所に至るまでの道のりが現れるのではないだろうか。

 戦前の黒部の主と言われた冠松次郎はその時代に出来る最大限の表現を試み黒部渓谷の姿を後世に残した。ガラス乾板の大型カメラを主に、フイルムカメラ、8ミリ動画など、新しい撮影機材にも挑戦し、文章はもちろんメディアでの表現など、あらゆるアプローチで黒部を記録した。登山も写真も今昔の隔たりはあるが、僕がこの5年間行った黒部と剱岳のドローン動画撮影も今できる最大限の表現であり、ドローンが登場した現在行ってこそ意味がある新鮮な挑戦だったと思う。人間、生まれてきた環境と時代は選べない。さて、これから何をしようか。

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